竹内洋岳先生 特別講演レポート

2018/05/27

竹内洋岳先生 特別講演レポート

 

 去る2018年3月17日(土)、年次総会に際して、プロ登山家の竹内洋岳先生の特別講演を開催いたしました。

 非常に興味深い貴重なお話に参加者の皆様に大変好評でした。

 今回は、当クラブメンバーによるレポートを掲載いたします。

 


竹内洋岳先生特別講演 感想文

 

 ポルシェクラブ六本木の2017年度年次総会では,プロ登山家の竹内洋岳先生をお招きして,ご講演いただきました。

 

 竹内先生は,2012年に14座目ダウラギリ(8167m)への登頂を成功したことで,日本人初,世界で29人目の14サミッター(8000m峰完全登頂)となった「プロ登山家」です。

「生のプロ登山家を見ていただくことで,今日の講演の大半は終わったようなものです。」

竹内先生は講演の冒頭でこのように挨拶されました。

 

 世界最高峰のエベレスト(8848m)をはじめとする8000mの高所では,地上の3分の1しか酸素がなく,「デスゾーン」と呼ばれています。このような高所で立ち入って行動できるのは,一部の渡り鳥と人間のみとのことです。

 

 身長180cm体重65kg,長身ですらっとした体格,語り口は知的でソフトな印象の竹内先生は,命がけで「デスゾーン」に立ち向かう限られた人間のうちの1人とはとても信じられないものでした。

 講演では,竹内先生が高所登山をはじめられた経緯や,日本の登山とヨーロッパの登山のスタイルや考え方の違いなど,普段我々が知らない高所登山の世界についてお話しいただきました。

 

 竹内先生は,14峰を完全登頂する過程で,二度生死の境をさまよう大きな事故に遭ったといいます。一度目のエベレスト事故から生還し,その後に自ら「プロ登山家」を名乗ることを決意し,二度目のガッシャブルムⅡ峰登山中に雪崩に巻き込まれ瀕死の重傷を負いつつ各国の登山隊や関係者の援助を受けて生還し,必ず戻ってくると決意されたとのことです。

 

 ガッシャブルムⅡ峰登山中に雪崩事故については,さまざまなメディアでも伝えられているところですが,直接体験された竹内先生から生死の境をさまよう事故の現場の状況を直接お話しいただくことは極めて得がたい体験でした。竹内先生のお話は,迫真的で臨場感に富む一方で,ご自身を客観視されるような語り口で,現場を直接体験したものにしか話せないものだったと思います。

 

 後日竹内先生の著書を拝読して知ったことですが,竹内先生にとっての登山は「想像のスポーツ」であると説明されています。危険を伴う高所登山において,想像力と本能的な恐怖心を駆使して危険を回避し,生きて帰ってくることが本質であるとのことです。

 

「14座の8000メートル峰のすべてに登頂したからといって,その経験で自分の山登りが変わるわけではない。次に登る山,その次に登る山,そして,この先に私が体験する登山のすべては,いつもゼロからスタートするのです-。」(竹内洋岳著「標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学」NHK出版新書)。

 

 

 竹内先生は登りたい山がたくさんあって困ると言います。

 

 竹内先生の登山はそのひとつひとつが哲学を具体化した作品であるように感じました。竹内先生が今後プロ登山家として完成させていくひとつひとつの作品について興味を持ち,応援していきたいと思います。

 

 

 (ポルシェクラブ六本木 Y.N.)